東京高等裁判所 昭和59年(ラ)345号 決定
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【判旨】
当裁判所の判断は、次のとおりである。
1 記録によれば、相手方は、抗告人を被告として新潟地方裁判所昭和五四年(ワ)第三一号土地抵当権設定登記抹消登記手続等請求訴訟を、抗告人及び生野周一、中野昭吾を被告として同庁昭和五四年(ワ)第四四三号土地所有権移転登記抹消登記手続等請求訴訟を、抗告人及び長井助一郎、生野周一を被告として同庁昭和五七年(ワ)第五四二号土地所有権移転登記抹消登記手続等請求訴訟をそれぞれ提起し、右各事件における訴訟上の請求は、別紙二の(ロ)記載のとおりであること、その後同裁判所において、右各事件の審理(四四三号事件と五四二号事件は併合審理)が進行したところ、いずれも昭和五九年四月二五日の口頭弁論期日において農事調停(調停事件としての事件番号は、右三一号事件については同庁昭和五九年(セ)第四号、右四四三号及び五四二号各事件については同庁昭和五九年(セ)第五号)に付され、同年五月二一日の調停期日に別紙二の(イ)記載の当事者間において同(ハ)記載のとおり調停が成立したこと、そして同裁判所は同年六月一四日右調停の調停調書について別紙三記載のとおりの趣旨の更正決定(原決定)をしたこと、これについて抗告人から即時抗告の申立をしたのが本件であつて、抗告に対する同裁判所の意見は別紙四記載のとおりであること、これより先相手方は抗告人を被告として同庁昭五三年(ワ)第三七一号土地所有権移転登記抹消登記手続等請求訴訟を提起し、同事件において相手方は抗告人に対し、別紙三更正決定添付の第一物件目録記載の各土地につき新潟地方法務局白根出張所昭和四四年一二月一七日受付第九三二八号条件付所有権移転仮登記、同目録(二)ないし(四)記載の各土地につき昭和四五年五月二日受付第三二二五号所有権移転登記の各抹消登記手続をし、別紙二調停調書添付第二物件目録記載の各土地につき同出張所昭和四四年一一月一〇日受付第八一八一号所有権移転登記の各抹消登記手続をし、右第一、第二各物件目録記載の各土地を明渡すべきことを請求していたところ、第一、二審とも相手方が勝訴し、抗告人が上告(最高裁判所昭和五八年(オ)第九七一号)していたが、前記の本件調停ではこの事件をも含めて解決をはかるため、調停条項第六項のとおり、相手方が右上告事件の訴えを取り下げることになつたものであること、相手方勝訴の右第一審判決の主文と更正決定後の調停第一項の新条項とは土地の明渡期限の点以外は同じ内容のものであること、以上の事実が認められる。
2 右によれば、原決定は、本件調停条項第一項において抗告人が相手方に対して条件付所有権移転仮登記の抹消登記手続をなし、かつ明け渡すべき物件を原決定添付第一物件目録の(二)、(三)の物件から(一)ないし(四)の物件に、所有権移転登記の抹消登記手続をなすべき物件を同目録の(二)、(三)の物件から(二)ないし(四)の物件にそれぞれ改めるものであるが、このように調停の目的物を新たに追加することによつて旧条項の実質的内容を変更するような更正決定を民事訴訟法一九四条の準用によりすることができるのは、調停において新条項のとおり合意されたことが調書の記載自体あるいは事件記録の全資料から明らかに認められるか、又は新条項に更正することについて関係当事者に異議のないことが記録上明らかである場合でなければならないものと解される。
これを本件についてみるに、前記認定のような本件の更正決定がなされるに至つた経過、とりわけ調停条項第六項において、相手方が抗告人との間の前記上告事件の訴えを取り下げることとし、同第九項において相手方と抗告人、その余の者らとの間でいわゆる包括的清算条項を設けていること等からすれば、調停条項第一項について、原裁判所の意見書にあるとおり、更正決定後の新条項のような合意が当事者間で成立したのではないかと推測することができないわけではない。しかし、反面、相手方としては更正決定前の旧条項のとおり、一部の物件についてだけ抹消登記手続等を求め、その余の物件についてはこれを求めないこととし、これによつて他の条項と合わせて全事件の解決をはかることとしたということも全く考えられないことではない。そうだとすれば、更正決定後の新条項のとおり合意されたことが調書の記載自体あるいは事件記録の全資料から明らかに認められるということはできない。また、記録を精査しても、新条項に更正することについて関係当事者に異議がなかつたことを認めるに足る資料は存しない。
3 そうすると、原決定には、調停調書の更正決定についてその要件が具備しないのにこれをした違法があるといわざるをえない。
(鈴木重信 加茂紀久男 梶村太市)
別紙一<省略>別紙二
(イ) 調停調書上の当事者等の表示
昭和五四五七年(ワ)第三一四四三五四二号原告
丸山清吉
右訴訟代理人(昭和五四年(ワ)第三一号についてのみ)
高島民雄
同川村正敏
同(昭和五四五七年(ワ)第四四三五四二号についてのみ)
坂上富男
同(昭和五七年(ワ)第五四二号についてのみ、昭和五四年(ワ)第四四三号については復代理人)
坂上勝男
昭和五四五七年(ワ)第三一四四三五四二号被告
丸山政一
昭和五四五七年(ワ)第四四三五四二号被告
生野周一
昭和五七年(ワ)第五四二号被告
長井助一郎
昭和五四年(ワ)第四四三号被告
中野昭吾
利害関係人 花岡勝芳
右五名訴訟代理人 今成一郎
同(昭和五七年(ワ)第五四二号についてのみ)
橘義則
(ロ) 調停調書上の請求の表示
一 昭和五四年(ワ)第三一号(昭和五九年(セ)第四号)
原告の所有する別紙第二物件目録及び第四物件目録記載の各土地に設定された別紙担保権目録記載の各抵当権、根抵当権設定登記の抹消登記手続請求
二 昭和五四年(ワ)第四四三号(昭和五九年(セ)第五号)
原告の所有する新潟県白根市大字和泉字家東七二五番一、田、九四五平方メートルに存する新潟地方法務局白根出張所昭和四六年四月二一日受付第三〇二四号所有権移転登記並びに同所七二六番一、田、九四五平方メートルに存する同出張所昭和四二年一一月二八日受付第六六四〇号及び昭和四八年九月一〇日受付第八一五一号各所有権移転登記の抹消登記手続請求
三 昭和五七年(ワ)第五四二号(昭和五九年(セ)第五号)
原告の所有する新潟県白根市大字和泉字家東七三一番一、田、一〇一一平方メートル及び、同所七三二番一、田、一〇一一平方メートルに存する新潟地方法務局白根出張所昭和三九年一一月二七日受付第六〇二九号、昭和四六年四月二六日受付第三一一四号及び昭和四八年七月一六日受付第六一五〇号の各所有権移転登記の抹消登記手続請求
(ハ) 調停条項
一 被告丸山政一は原告に対し、別紙第一物件目録記載の各土地につき、新潟地方法務局白根出張所昭和四四年一二月一七日受付第九三二八号条件付所有権移転仮登記、昭和四五年五月二日受付第三二二五号所有権移転登記の各抹消登記手続をし、同第二物件目録記載の各土地につき、同出張所昭和四四年一一月一〇日受付第八一八一号所有権移転登記の各抹消登記手続をし、かつ昭和五九年一〇月三一日限り右各土地を明け渡す。
二 被告丸山政一は原告に対し、別紙第三物件目録記載の各土地につき、本日、損害賠償債権の代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をし、かつ昭和五九年一〇月三一日限り右各土地を明け渡す。原告と被告丸山政一間において、右各土地につき協栄信用組合のため設定された根抵当権(新潟地方法務局白根出張所昭和五八年一一月一日受付第七四一一号)に関し、原告は何らの負担を引き受けるものでないことを確認する。
三 被告丸山政一は原告に対し、別紙第二物件目録及び同第四物件目録記載の各土地につき、別紙担保権目録記載の各抵当権、根抵当権設定登記の抹消登記手続をする。
四 被告丸山政一は原告に対し、昭和五九年一〇月三一日限り、別紙第四物件目録記載の各土地及び新潟県白根市大字和泉字家東五五四番二、雑種地三六平方メートルの土地を明け渡す。
五 <省略>
六 原告は、被告丸山政一との間の最高裁判所昭和五八年(オ)第九七一号事件の訴を取り下げる。
七 原告は、利害関係人兼亡花岡トメ承継人花岡勝芳に対し、新潟地方裁判所昭和五四年(ワ)第一四〇号事件確定判決(昭和五九年二月一四日上告棄却)に基づく一切の権利を放棄する。
八 原告は、昭和五四年(ワ)第四四三号事件及び昭和五七年(ワ)第五四二号事件につき、その余の請求を放棄する。
九 原告と被告ら及び利害関係人間には、本調停条項に定めるほか何らの債権債務のないことを相互に確認する。
一〇 調停費用及び訴訟費用は各自の負担とする。
第一物件目録
(一) 新潟県白根市大字和泉字家東六一五番一
田 九九八平方メートル
(二) 同所六一六番一
畑 一三五平方メートル
第二物件目録
(一) 新潟県白根市大字和泉字家東六二四番一
田 一〇一一平方メートル
(二) 同所六二五番一
田 一〇一一平方メートル
第三物件目録
(一) 新潟県白根市大字和泉字扇田九五〇番一
田 三二三平方メートル
(二) 同所九五〇番二
公衆用道路 一三平方メートル
(三) 同所九五一番
畑 一三五平方メートル
(四) 同所九五二番一
田 七三九平方メートル
(五) 同所九五二番二
公衆用道路 一三平方メートル
(六) 同所九五三番一
田 一七七平方メートル
(七) 同所九五三番二
公衆用道路 一九平方メートル
(八) 同所九五三番三
田 七二平方メートル
(九) 同所九五三番四
田 四二三平方メートル
(一〇) 同所九五三番五
公衆用道路 一六五平方メートル
(一一) 同所九五四番一
雑種地 七平方メートル
(一二) 同所九五四番二
雑種地 一一平方メートル
(一三) 同所九五四番三
公衆用道路 4.50平方メートル
第四物件目録
(一) 新潟県白根市大字和泉字家東六一九番一
雑種地 一二五平方メートル
(二) 同所六一九番二
田 七八三平方メートル
(三) 同所六二二番一
田 八七六平方メートル
(四) 同所六二三番一
畑 一三五平方メートル
担保権目録
(1) 新潟地方法務局白根出張所 昭和四四年三月一四日受付第二、〇三〇号抵当権設定登記
(2) 同 昭和四四年三月二九日受付第二、六六〇号根抵当権設定登記
(3) 同 昭和四四年九月二六日受付第七、〇二一号根抵当権設定登記
(4) 同 昭和四四年一〇月三日受付第七、三〇二号抵当権設定登記
一時利用地目録<省略>別紙三
〔更正決定の前文〕
昭和五九年(セ)第四号、同第五号農事調停事件(昭和五四年(ワ)第三一号、同第四四三号、昭和五七年(ワ)第五四二号土地抵当権設定登記抹消登記手続等請求事件)について昭和五九年五月二一日成立した調停にかかる調停調書中に明白な誤謬があつたので、職権で次のとおり決定する。
〔更正決定の主文〕
右調書中、調停条項第一項四行目の「仮登記」の後に「同目録(二)ないし(四)記載の各土地につき、」との文言を付加して更正し、右調書添付の第一物件目録を別紙第一物件目録のとおり更正する。
第一物件目録
(一) 新潟県白根市大字和泉字家東五五四番一
一、田 七三〇平方メートル
(二) 同所六一五番一
一、田 九九八平方メートル
(三) 同所六一六番一
一、畑 一三五平方メートル
(四) 同所六一六番二
一、田 八六二平方メートル別紙四
意見書
抗告人 丸山政一
右の者から当裁判所のなした更正決定に対し、抗告の申立があつたが、次のとおり理由がないものと考える。すなわち、本件調停は、原告丸山清吉と被告ら及び利害関係人間の土地所有権をめぐる紛争について、原告と被告丸山政一との間ではその兄である原告が係争物件の所有者として登記名義を回復し、又は所有権の移転を受けることとし、代りにその余の被告及び利害関係人(被告政一からの譲受人)との間では原告が一切の権利を放棄することによつて、全面的、一括解決を図つたものであることは、本件調停の個々の各条項及びその全体に徴すれば明らかである。
ところで、本件更正決定による更正後の第一物件目録は、本庁昭和五三年(ワ)第三七一号事件判決(本件昭和五四年(ワ)第三一号事件甲第一一号証、以下証拠は同事件のもの)添付の第一物件目録そのものである。そして、本件調停条項第一項は右判決主文と同一である。右判決に対して、被告政一から控訴が提起されたが、これを棄却する判決(甲第一一号証)があり、これに対する上告(丸山政一の本人調書)事件が本件調停条項第六項に掲げる上告事件であり、同第一項により右一審判決確定と同一の結果を実現することとして、訴えの取下げにより右上告事件を終了させることとしたものである。
右第一物件目録記載の四筆の物件のうち、脱落した二筆をこと更除外したとすれば、その所有権の帰属につき、最高裁判所まで争いながら、振出しの状態に戻したという誰れが考えても不合理な結果を図つたということとなるし、本件調停条項第九項の包括的清算条項が合意された趣旨が没却されてしまう。
本件更正決定により追加された第一物件目録記載の二筆の物件が、脱落したものであることは、右のとおり本件調停の全趣旨及び本件記録全体から容易に看取できるところである。